月別アーカイブ: 2020年8月

「ベーシックローズ 香港の法律に残されたもの / BASIC LAWS on what’s left of Hong Kong’s Law」

「ベーシックローズ 香港の法律に残されたもの / BASIC LAWS on what’s left of Hong Kong’s Law」 ¥800+tax

香港で2019年初夏にはじまった香港の民主化運動は、当初、200万人にもおよぶ市民が参加する平和的な集会や行進でしたが、要求に応じない政府や暴力で市民を取り締まる警察と、民主派との間で抗争が激化します。

やがて、2020年6月、国安法が中国政府により香港に導入されたことで、「一国二制度」が実質的に骨抜きにされ、民主化運動や言論の自由も大幅に押さえつけられる状況に直面しました。

イギリスの統治下でも、法の下で万人が平等に異議申し立てを行い、法の裁きを受け、返還後もこの制度を受け継いできた香港。
その法治と自由の中で育ち、2019年の民主化運動を法学徒として見てきた著者が、警察による不法逮捕や暴力の横行とそれを黙認してきた司法に対し忸怩たる思いを抱きながら、今後、法と法に関わる者にできることを真摯に問い、考えを綴った冊子。

「我々には、持っているものをしっかりと理解し、守り抜く義務がある。
そして、過去一年間してきたように、臨機応変に立ち上がらなければならない。
想像力、打たれ強さ、そして気高さを持って。」

同時に、日本の制度や法のもとで、日本人にできることについても考えさせられる一冊です。
香港版に続いて、日本の人にも向けた邦訳版での出版になります。

A5判40pages 英語/日本語

40代日本人男性「Hong Kong political graffiti & buff ~ 2019年夏 香港民主化デモ 逮捕された記録~」

40代日本人男性「Hong Kong political graffiti & buff ~ 2019年夏 香港民主化デモ 逮捕された記録~」¥2000+tax

著者は、世界各地の消されゆくor消されたグラフィティを撮影して収集する40代の日本人男性。

社会的なムーブメントにあわせて町の中にグラフィティや落書きも増えることから、2019年夏、民主化デモで注目される香港に飛び、建物や公共物に、見事な段取りで手早くスローガンやグラフィティが書かれ、日々更新されてゆくのを目の当たりにし、激動を肌で感じながら、撮影に精を出していた。

8月31日、各地でデモが発生する中、デモ参加者を警察が地下鉄太子駅の車両の中まで追い詰め、メディアや救護を締め出した構内で催涙スプレーを噴射したり殴打する大事件が発生した(事件の真相は今日まで不明)。
著者は、このとき対岸の湾仔にいたが、ここでも催涙ガスの中、デモ隊が警察に追われていたため、その場から逃げ出したものの、(たまたまデモ隊カラーと同じ黒の服を着ていたこともあり)数人の武装警官に捕まってしまう。

これは、著者が撮影した、2019年8月〜12月まで香港の街中に出現した民主化運動に関連した落書きの写真とともに、自身の逮捕の経緯や保釈後についての手記をまとめたもの。

明確な落書きだけでなく、上塗りされたもの、何度も貼ったり剥がしたり、書いたり消したりした攻防の痕跡も含めて、町に刻まれた痕跡を記録した写真集。

困難にある香港への応援と、日本人に香港の状況に注目して欲しいという気持ちから作ったそうです。

A5判68pages Japanese/English/Cantonese 日・英・広東語

スズキナオ「酒ともやしと横になる私」

スズキナオ「酒ともやしと横になる私」(シカク出版)¥1300+tax

大阪シカクのメルマガで連載していたエッセイコラム「鈴木のぼやき」を加筆修正、書き下ろしを加えた、昔の言葉でいうと洒脱、いまの言葉でいうと新感覚無意味系脱力なエッセイ!

格安深夜バスで大阪と東京を往復しながら、
罪悪感を減らして健康を増進するために?ラーメンにもやしを加えながら
あるいは書店でビジネスや自己啓発系の本のタイトルを眺めたり、お酒を飲みながら、スズキナオが感じたこと、考えたことを語った208頁。

「心底どうでもいい話を読まされてるなと思ってたら、それが宇宙の真理に直結していたりする。ナオさんの頭の中って、本当どうなってんだろ」パリッコ(酒場ライター)

格安深夜バスとか30円のもやしを尺度にする小さな人間にみせかけて?日常を軽やかにする視点を教えてくれるエッセイの名手。
昭和の若者が吉田健一から、新幹線時代に各駅で旅する悦びやお酒の飲み方を教わったように、令和にはスズキナオのエッセイを味わう若人がいるに違いない。

本はスマホや手札よりちょっと大きな三五判変形で、2センチほどの厚さ。手になじみやすく、パール紙のカバーとあわせて物質感があります。

三五判変形208pages
※サイン、ペーパーつき

小林瑞恵 「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」

小林瑞恵 「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」(大和書房)¥2700+tax

アール・ブリュットとは、伝統的・正統的な美術教育や技法から解放されたアートのこと。

1901年、フランスに生まれたジャン・デュビュッフェは画家を志ながらも、家業や兵役につく傍ら絵を描き続け、40才をすぎてようやく画業に専念しました。
それまで、様々な社会経験を積んだ彼は、人間には美術教育を受けずとも表現したいという欲求が生まれ、見返りや評価に拘らず衝動のままに作品を作る人がいる事に気づきます。
そして45年に、スイスの精神病院や刑務所で出会った未知の表現者たちの独創的な作品に魅了され、これをアール・ブリュット(ブリュットとは、天然の、なまの、原石のといった意味あい)と呼び、48年に、60人ほどの会員を募ってアール・ブリュット協会を設立し作品の収集や紹介に乗り出します。

ジャン・デュビュッフェがアール・ブリュットという概念を打ち出したことで私たちは、それまで美術の世界から、こぼれおちていた多くの作品をしました。

近年、日本でも、障害のある人の芸術活動支援がおこり、専門の美術館やギャラリーもできました。
その中で、国内外に日本の作家と彼らの作品を紹介してきたキューレーターが編んだのが本書となります。表現せずにはいられない40名の作家の270の作品を収録し、個々の作家・作品に解説を付しています。

ここ何年か、中野駅からタコシェに続くアーケード街サンモール、また中野ブロードウェイでも、アールブリュット作品を紹介するパネルやポスターが展示され、町ぐるみでこの芸術を支援していますが、この展示のディレクションも著者が行っています

装丁は、吉岡秀典。章のコンセプトにあわせて紙を変えたり、黒紙に銀刷りの重厚感ある表紙まわりにコデックス装と、作品とともに、その造りも楽しめます。

A5判204pages

SF・幻想文学・変な小説系翻訳同人誌 BABELZINE vol.1

BABELZINE vol.1 (バベルうお) ¥909

英語圏を中心としたSF・幻想文学・変な小説を翻訳するサークル「バベルうお」の同人誌。

ここ数年のうちに発表された、英語圏の日本には殆ど紹介されていない(けど、現地では注目の)未邦訳翻訳小説11編と、主宰者でもある白川眞氏の評論「疫病時代のバーチャルリアリティと性の想像力」を収録。

収録作品は—

【翻訳】
● ピーター・ワッツ「血族」藤川新京 訳
はるか遠未来、統合された集合知性と化した人類の記憶のアーカイブから1人の男が再構成される。男の名前はフィル。彼が目覚めさせられた理由とは、そして人類の辿った運命とは?
巨匠ワッツによる「ヒトであるということの意味」をテーマにした力作。

● リッチ・ラーソン「肉と塩と火花」平海尚尾 訳
近未来、知性化チンパンジーと人間のバディ刑事が挑む奇妙な殺人事件。チンパンジーのクーが抱える存在の耐えがたい孤独に差し込む一筋の希望。バカSFとあなどるな!

● ジョン・チュウ「確からし茶」 川端冷泉 訳
確率変数を通して世界に干渉する能力を持つ女性、ケイティ。彼女は同じ力を持つ父親から、その力を振るうことを固く禁じられていたが、友人からある事件への介入を頼まれてしまう。彼女の決断は、そして事件の顛末は…
超能力系親子ハートフルストーリー

● マリ・ネス「キスの式典」 空舟千帆 訳
女の子は誰でも一生に一度、列に並んで「彼」にキスをすることーーなじみ深いおとぎ話に題材を借りつつ、忘れがたい印象と問いを残す小品。

● S・チョウイー・ルウ「母の言葉」 藤川新京 訳
言語能力を脳から抽出する技術が一般化した近未来、娘のために母親の下した決断は大きな代償を伴うものだった。母娘三世代を通じて伝えられるもの、そして失われるものを描いた痛切な言語SF

● テンダイ・フチュ「ンジュズ」 内藤惇 訳
テラフォーミングが進んでも、古くからの風習が失われるには至っていない近未来。語り手は衛星ケレスに滞在中、水難事故で息子を失う。そこで彼女を待っていたのは、核融合プラントの貯水池に住むという水魔「ンジュズ」を鎮めるための儀式だった―鮮烈なアフリカSF。

●ソフィア・サマター「セルキー譚は負け犬のもの」 西村取想とシタギセール=カオル 訳
海ではアザラシ、陸では人間、それがセルキー。愛しい人を失ってしまうセルキー譚に少女が背を向けるための、ひとつの出会い。ジュブナイルの揺れる心がいま叫び出す。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞、英国SF協会賞ノミネートの傑作!

●ラショーン・M・ワナック「一羽は悲しみ、二羽でよろこび」 白川眞 訳
死んだ子どもの世話をするアンダーテイカー。抱えきれない悲しみを、カラスが子どもとともに連れ去ってゆく。
深く、果てしない悲しみと向き合うための物語。

● ケリー・ロブスン「二年兵」 藤川新京 訳
皆がさげすむ存在である「二年兵」のミケルは妻と二人暮らし。ある日彼は清掃員として働く研究所で奇妙な赤ん坊を拾う。ようやく一人前の父親になれたと喜ぶミケルだったが…歪んだ父性のかたちを描く戦慄のホラー。

● ベストン・バーネット「エンタングルメント」 川端冷泉 訳
遠く離れた銀河に存在する数多の文明が互いに交流している遠未来。惑星レンに生まれ、地球でヒトとして育てられた「僕」は、自らのアイデンティティを求めてヒトとの逢瀬を繰り返す。硬派なSF世界を舞台にした、幾重にも「もつれあった」物語。

● ジェームズ・ビーモン「オルガンは故郷の歌を奏で」 藤川新京 訳
少年オザンの乗り組む飛行船の武器はオルガンの音色に操られる不気味な猿の大群だった。クリミア戦争を舞台に少年の成長を描く、血生臭くもカラフルなスチームパンク。

【評論】
「疫病時代のバーチャルリアリティと性の想像力」

A5判196pages