小林瑞恵 「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」(大和書房)¥2700+tax
アール・ブリュットとは、伝統的・正統的な美術教育や技法から解放されたアートのこと。
1901年、フランスに生まれたジャン・デュビュッフェは画家を志ながらも、家業や兵役につく傍ら絵を描き続け、40才をすぎてようやく画業に専念しました。
それまで、様々な社会経験を積んだ彼は、人間には美術教育を受けずとも表現したいという欲求が生まれ、見返りや評価に拘らず衝動のままに作品を作る人がいる事に気づきます。
そして45年に、スイスの精神病院や刑務所で出会った未知の表現者たちの独創的な作品に魅了され、これをアール・ブリュット(ブリュットとは、天然の、なまの、原石のといった意味あい)と呼び、48年に、60人ほどの会員を募ってアール・ブリュット協会を設立し作品の収集や紹介に乗り出します。
ジャン・デュビュッフェがアール・ブリュットという概念を打ち出したことで私たちは、それまで美術の世界から、こぼれおちていた多くの作品をしました。
近年、日本でも、障害のある人の芸術活動支援がおこり、専門の美術館やギャラリーもできました。
その中で、国内外に日本の作家と彼らの作品を紹介してきたキューレーターが編んだのが本書となります。表現せずにはいられない40名の作家の270の作品を収録し、個々の作家・作品に解説を付しています。
ここ何年か、中野駅からタコシェに続くアーケード街サンモール、また中野ブロードウェイでも、アールブリュット作品を紹介するパネルやポスターが展示され、町ぐるみでこの芸術を支援していますが、この展示のディレクションも著者が行っています。
装丁は、吉岡秀典。章のコンセプトにあわせて紙を変えたり、黒紙に銀刷りの重厚感ある表紙まわりにコデックス装と、作品とともに、その造りも楽しめます。
A5判204pages