PUBLICATION

95年に漫画雑誌ガロでデビューして以来、ポップなキャラクターで、超現実的なストーリーを描き、『爆裂瞑想バキトマ道』『げだつマン』『へろみの夏休み』などの単行本を発表し、近年ではフランスでも翻訳が出ている漫画家キクチヒロノリ。

2011年頃から、漫画の手法を用いながら、夢で見たり頭に浮かんだイメージを、新たなスタイルで描くようになりました。なかでも11~16年にかけての作品は、錬金術や銅版画、木版画、古い術師の言葉に通じるものが頻出します。

8年にわたって描きおろした作品を、このたび『ALCHEMICAL GRAPHICS』と題して、作品集にまとめました。緻密な描き込みで埋め尽くされたモノクロ画は、発掘された石版か、宇宙人からのメッセージようです。

フランスの出版芸術集団Le Dernier Criを主宰するパキート・ボリノの協力を得て表紙をデザイン、タイトルとイラストに箔押しをほどこし、重厚な錬金術のイメージにパンチを効かせています。

●『ALCHEMICAL GRAPHICS』HIRONORI KIKUCHI
タコシェ刊 220mm×290mm 96ページ  ¥2500(税込)

表紙 プライク(103K)+チップボール(2mm)合紙加工
:メタル消し金箔押し
本文 b7バルキー(90.5K):墨1C/1C
見返し:NTラシャ黒(100K)
製 本:コデックス装、表紙ベタ貼り

コデックス装で開きやすい造本です


墨汁の錬金術師

by 都築響一 (Roadsiders’ weekly より)

よほどインディーズ漫画に詳しいひとでないと、キクチヒロノリという名前にすぐ反応はできないかもしれない。1998年から2000年代の初めにかけて数冊の単行本を発表するが、その後ほとんど活動が知られないまま時が経ち、いま突然、あらたな作品集を発表。その刊行記念展が中野タコシェで開催されることになった。

『アルケミカル・グラフィックス=錬金術の図像』というタイトルのとおり、だれも解読できない古代の象形文字で書かれた物語のようにも見える、呪術的なイメージの集積。それは過去の単行本で見ていたポップな作風とかけ離れて、これがどんなふうに、どんな人間によってつくられたのか興味をかき立てるのだが、キクチヒロノリ本人についてはほとんど資料がない。公式ウェブサイトもあることはあるが、最終更新が2011年で止まったまま。その謎めいたキャラクターが気になって、今回は茨城県在住のキクチさんと電話でお話することができた。

最近のキクチヒロノリさん

キクチヒロノリは今年で53歳。生地の茨城県筑西市に現在も住み暮らしている。公式サイトにはこんなふうに略歴が書かれていた――

1965年茨城生まれ。60年代の美術雑誌、『芸術新潮』の中の絵や、水木しげるの絵(朱色とスミの2色刷の見開き絵)をみてすごしたのが思い出。

1972年、小学校入学。友人の影響でスーパーカーに熱中する。あらゆる少年漫画(あしたのジョー、ドカベン、ガキデカ,マカロニほうれん荘など)の模写をする。コマ割り漫画も作る。

1978年、中学校入学。ラジオ(FEN)のロックミュージックを聞くことが最大の楽しみ。ナックやバグルズが大ヒットしたのをまのあたりにする(ボヘミアンラプソディとキルザキングが好きだった)。

1981年、高校入学。安部公房、大江健三郎、片岡義男などを読み出す。エレキギターを手にするが、上達が遅く、バンド活動などまったくムリ、というレベルだった。マンガも作っていた。

1985年、大学入学。吉本隆明、土方巽、瀧口修造などに熱中する。マンガらしくない、新しいなにかがあるマンガの創作についていろいろと考えていた。しかしまったくものにはならず。

1989年、デザイン事務所入社。事務所の資料コーナーにあった美術、グラフィックデザイン、哲学などの本を手あたり次第に読む。杉浦康平や清原悦志のデザインを知る(92年退社)。

1995年、月刊漫画誌ガロに入選、『Fruit』掲載。夢をマンガに利用するにあたり、必要性を感じ、C.G.ユング、河合隼雄などをよく読むようになった。レーモン・ルーセルが最大のアイドルだった。

2003年ごろ、東京成増のアパートで。漫画や学習雑誌イラストを描いていた時代

漫画は『ガロ』がデビューですけど、94~95年ごろに郵送で何回か送って、それがことごとく却下されてたんです。「こういうのはウチでは……」って。それで思いあまっていちど編集部を訪ねまして、編集者の意見を聞いて修正したのが単行本になった作品でした。それで、そのころボツにされていたのが、今回発表されることになったようなものだったんですね。だからそのころから、単行本用の漫画と平行して、こういうのをずっと描いていたんです。ただ、編集者の意見に従わないと本ができないし、そうなると経済的な不安が出てくる。そのあたりがパワー不足の原因になったのかもしれません。いまやっているのが、言ってみれば100%自分の作風なんです。

EARTHBORN CREATURE 1, 2016

 

MERCURIUS, 2012

もともと根本敬さんが好きだったんですが、あれとはちがうかたちの狂気を描きたかったんですね。自分はただの普通の人間なので、普通の人間がまじめに努力して描いた狂気というか。

仕事として他に学習漫画もやったりしてきましたが、それだけで生活できるわけではぜんぜんないので。いまは貯金を取り崩したりしながら、制作に集中しています。

これまで絵の仕事だけで生活が成り立ったことはいちどもないので、暮らしは母とふたり住まいで、なるべく慎ましくやっていくようにしてます。ちゃんと稼げてる状況ではないので、ふざけていてはいけないと思って。もともとは酒も好きだったけど、いまはほとんど飲みません。ぜんぜん遊びにも出ないので、毎日絵を描いてるだけ。そういうストイックな倹約生活をもう14~5年は続けてますが、2011年の東日本大震災では家に被害も出たので、そこからはよりストイックにするようにしていて。でも、そうやって絵に集中していられることが、なにより楽しいんです。

現在の仕事部屋、この机で「ALCHEMICAL GRAPHICS」を描いている

絵のモチーフは眠る直前に見た光景とか、いわゆる入眠幻覚ですか、そういう夢ともうつつともいえない状態で見えるものを、急いでメモしたりすることが多いですね。

ただ、ああいう絵ですから、1枚描くのに1ヶ月ぐらいかかってしまう。手を抜くわけにいかないし。以前はもっと短時間で描きまくってたときもあったんですが、見返してみるとやっぱり満足できなくて、手を入れ直したり。むかし描いたのに描き足すことも、ずいぶんやってるんですよ。使ってる素材はずっと同じで、墨汁にポスターカラーの白、あとはボールペンや油性マジックを適宜加えるくらいです。

私には携帯電話もないし、ウェブサイトもひとに頼んでるだけなので、更新も思うようにできない。展覧会などもまったくやってきませんでしたから、今回がほんとうに久しぶり。ただもう時代に乗り遅れてるだけですね。

「ALCHEMICAL GRAPHICS」制作作業中の自画像

「まじめに努力して描いた狂気」というのが、なるほどすごくよくわかる。ちからまかせのノイズではなくて、気の遠くなる反復練習の上に構築された緻密なプログレッシブ・アルバムのような。同時にそこには「狂気をまじめに努力して描く」という、それ自体が狂気へと向かうようなドライブもあって。

誉められもせず、苦にもされず。野原の松の林の陰の茅葺き小屋のかわりに、茨城の片隅の実家の一室にいて、自分だけのルールを愚直に守りながら、毎日絵に向かう画家。

アートで勝とうとすることは難しい。でも「勝ち」を思いさえしなければ、そこには「負け」もない。

だれにも知られず、知られようともしないまま、こんなイメージを紡ぎ続ける図像の錬金術師が、ここにいたのだった。

ART SCHOOL IN MY BRAIN 2, 2015

SEARCH A NEW HARMONEY, 2014

ANCIENT PROPHETS, 2014

FISH, 2013

DOLLS 3, 2017

READING, 2013

INSIDE OF THE FACTORY, 2015

STORYTELLER, 2017

SCORPIOID LOCUST, 2015

なお作品集では、かつて『HETA-UMA / MANGARO』展を南仏マルセイユとセットでオーガナイズした、こちらもかなりクレイジーな出版芸術集団ル・デルニエ・クリの親分パキート・ボリノが、今回は作品集の表紙デザインを担当。そのブルータルなデザイン感覚が、キクチヒロノリの絵に沈殿する暗いエネルギーに、さらなる圧力を加えているようでもある。

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