スズキナオ「酒ともやしと横になる私」

スズキナオ「酒ともやしと横になる私」(シカク出版)¥1300+tax

大阪シカクのメルマガで連載していたエッセイコラム「鈴木のぼやき」を加筆修正、書き下ろしを加えた、昔の言葉でいうと洒脱、いまの言葉でいうと新感覚無意味系脱力なエッセイ!

格安深夜バスで大阪と東京を往復しながら、
罪悪感を減らして健康を増進するために?ラーメンにもやしを加えながら
あるいは書店でビジネスや自己啓発系の本のタイトルを眺めたり、お酒を飲みながら、スズキナオが感じたこと、考えたことを語った208頁。

「心底どうでもいい話を読まされてるなと思ってたら、それが宇宙の真理に直結していたりする。ナオさんの頭の中って、本当どうなってんだろ」パリッコ(酒場ライター)

格安深夜バスとか30円のもやしを尺度にする小さな人間にみせかけて?日常を軽やかにする視点を教えてくれるエッセイの名手。
昭和の若者が吉田健一から、新幹線時代に各駅で旅する悦びやお酒の飲み方を教わったように、令和にはスズキナオのエッセイを味わう若人がいるに違いない。

本はスマホや手札よりちょっと大きな三五判変形で、2センチほどの厚さ。手になじみやすく、パール紙のカバーとあわせて物質感があります。

三五判変形208pages
※サイン、ペーパーつき

小林瑞恵 「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」

小林瑞恵 「アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術」(大和書房)¥2700+tax

アール・ブリュットとは、伝統的・正統的な美術教育や技法から解放されたアートのこと。

1901年、フランスに生まれたジャン・デュビュッフェは画家を志ながらも、家業や兵役につく傍ら絵を描き続け、40才をすぎてようやく画業に専念しました。
それまで、様々な社会経験を積んだ彼は、人間には美術教育を受けずとも表現したいという欲求が生まれ、見返りや評価に拘らず衝動のままに作品を作る人がいる事に気づきます。
そして45年に、スイスの精神病院や刑務所で出会った未知の表現者たちの独創的な作品に魅了され、これをアール・ブリュット(ブリュットとは、天然の、なまの、原石のといった意味あい)と呼び、48年に、60人ほどの会員を募ってアール・ブリュット協会を設立し作品の収集や紹介に乗り出します。

ジャン・デュビュッフェがアール・ブリュットという概念を打ち出したことで私たちは、それまで美術の世界から、こぼれおちていた多くの作品をしました。

近年、日本でも、障害のある人の芸術活動支援がおこり、専門の美術館やギャラリーもできました。
その中で、国内外に日本の作家と彼らの作品を紹介してきたキューレーターが編んだのが本書となります。表現せずにはいられない40名の作家の270の作品を収録し、個々の作家・作品に解説を付しています。

ここ何年か、中野駅からタコシェに続くアーケード街サンモール、また中野ブロードウェイでも、アールブリュット作品を紹介するパネルやポスターが展示され、町ぐるみでこの芸術を支援していますが、この展示のディレクションも著者が行っています

装丁は、吉岡秀典。章のコンセプトにあわせて紙を変えたり、黒紙に銀刷りの重厚感ある表紙まわりにコデックス装と、作品とともに、その造りも楽しめます。

A5判204pages

SF・幻想文学・変な小説系翻訳同人誌 BABELZINE vol.1

BABELZINE vol.1 (バベルうお) ¥909

英語圏を中心としたSF・幻想文学・変な小説を翻訳するサークル「バベルうお」の同人誌。

ここ数年のうちに発表された、英語圏の日本には殆ど紹介されていない(けど、現地では注目の)未邦訳翻訳小説11編と、主宰者でもある白川眞氏の評論「疫病時代のバーチャルリアリティと性の想像力」を収録。

収録作品は—

【翻訳】
● ピーター・ワッツ「血族」藤川新京 訳
はるか遠未来、統合された集合知性と化した人類の記憶のアーカイブから1人の男が再構成される。男の名前はフィル。彼が目覚めさせられた理由とは、そして人類の辿った運命とは?
巨匠ワッツによる「ヒトであるということの意味」をテーマにした力作。

● リッチ・ラーソン「肉と塩と火花」平海尚尾 訳
近未来、知性化チンパンジーと人間のバディ刑事が挑む奇妙な殺人事件。チンパンジーのクーが抱える存在の耐えがたい孤独に差し込む一筋の希望。バカSFとあなどるな!

● ジョン・チュウ「確からし茶」 川端冷泉 訳
確率変数を通して世界に干渉する能力を持つ女性、ケイティ。彼女は同じ力を持つ父親から、その力を振るうことを固く禁じられていたが、友人からある事件への介入を頼まれてしまう。彼女の決断は、そして事件の顛末は…
超能力系親子ハートフルストーリー

● マリ・ネス「キスの式典」 空舟千帆 訳
女の子は誰でも一生に一度、列に並んで「彼」にキスをすることーーなじみ深いおとぎ話に題材を借りつつ、忘れがたい印象と問いを残す小品。

● S・チョウイー・ルウ「母の言葉」 藤川新京 訳
言語能力を脳から抽出する技術が一般化した近未来、娘のために母親の下した決断は大きな代償を伴うものだった。母娘三世代を通じて伝えられるもの、そして失われるものを描いた痛切な言語SF

● テンダイ・フチュ「ンジュズ」 内藤惇 訳
テラフォーミングが進んでも、古くからの風習が失われるには至っていない近未来。語り手は衛星ケレスに滞在中、水難事故で息子を失う。そこで彼女を待っていたのは、核融合プラントの貯水池に住むという水魔「ンジュズ」を鎮めるための儀式だった―鮮烈なアフリカSF。

●ソフィア・サマター「セルキー譚は負け犬のもの」 西村取想とシタギセール=カオル 訳
海ではアザラシ、陸では人間、それがセルキー。愛しい人を失ってしまうセルキー譚に少女が背を向けるための、ひとつの出会い。ジュブナイルの揺れる心がいま叫び出す。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞、英国SF協会賞ノミネートの傑作!

●ラショーン・M・ワナック「一羽は悲しみ、二羽でよろこび」 白川眞 訳
死んだ子どもの世話をするアンダーテイカー。抱えきれない悲しみを、カラスが子どもとともに連れ去ってゆく。
深く、果てしない悲しみと向き合うための物語。

● ケリー・ロブスン「二年兵」 藤川新京 訳
皆がさげすむ存在である「二年兵」のミケルは妻と二人暮らし。ある日彼は清掃員として働く研究所で奇妙な赤ん坊を拾う。ようやく一人前の父親になれたと喜ぶミケルだったが…歪んだ父性のかたちを描く戦慄のホラー。

● ベストン・バーネット「エンタングルメント」 川端冷泉 訳
遠く離れた銀河に存在する数多の文明が互いに交流している遠未来。惑星レンに生まれ、地球でヒトとして育てられた「僕」は、自らのアイデンティティを求めてヒトとの逢瀬を繰り返す。硬派なSF世界を舞台にした、幾重にも「もつれあった」物語。

● ジェームズ・ビーモン「オルガンは故郷の歌を奏で」 藤川新京 訳
少年オザンの乗り組む飛行船の武器はオルガンの音色に操られる不気味な猿の大群だった。クリミア戦争を舞台に少年の成長を描く、血生臭くもカラフルなスチームパンク。

【評論】
「疫病時代のバーチャルリアリティと性の想像力」

A5判196pages

大竹昭子 随想録「スナップショットは日記か? 森山大道の写真と日本の日記文学の伝統」

大竹昭子 随想録「スナップショットは日記か? 森山大道の写真と日本の日記文学の伝統」¥900+tax

随筆・小説・書評・写真論などで活動する大竹昭子が都内の4つの書店を会場に開催するトークと朗読のイベント〈カタリココ〉から生まれた文庫本シリーズ「カタリココ文庫」。
対談の記録だけでなく、大竹昭子の散文もシリーズに加わりました。

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20代のデビュー当時から80才をすぎた現在まで、スナップショットという方法にこだわり、昨年(2019年)写真界のノーベル賞とも言われるハッセルブラッド国際写真賞受賞した森山大道。
80年代半ばに森山と知り合い、その作品を見ることで写真世界と繋がってきた著者は、ヨーテボリでの授賞式に駆けつけ、このシーンを皮切りに、森山大道の写真の核心を探ってゆきます。

森山の写真は、街路で目にしたものをスナップショットするという単純な方法で撮られていながら、世界が異界に満ち満ちていることを見る者に突きつけます。
日々歩いて撮るというシンプルさと、それが生みだすイメージとの飛躍。

著者はこの2点に注目し、そこにドナルド・キーンが『百代の過客』のなかで指摘した日本の日記文学の伝統が息づいているのではないかと考えます。
スナップショットは1950年代、カメラの小型化とともに広まりましたが、世界的には衰退する傾向にあります。
ところが、日本では森山大道をはじめとしてこれにこだわる写真家は多く、若い世代にも引き継がれています。
そこに平安時代以来の日記文学の伝統がかたちを変えて継承されているのではないか、という著者の指摘は、コロナ禍にあって日記が見直されているいま、さまざまな方向に考えを発展させる可能性を秘めています。

また本書の文章スタイルも、旅紀行やエッセイや評論の要素を併せ持ちながらも、そのどれにも属さない独自なものです。これについて著者はつぎのように述べています。

「写真について書かれた本は、専門用語や思想書からの引用が多く、難解になりがちです。写真はだれでも撮れる身近なものにもかかわらず、それについて語ろうとするとどうして難しい文章になるのか、というのは長らく私の疑問でした。
今回の本ではそれに挑戦し、写真の外に立って内部を観察しようと試みました。写真に関心のある人はもちろん、そうではない人にも自然に入り読み終えることができればうれしいです」

初出は『新潮』(2020年7月号)、それにコロナ禍の2020年6月19日に行った森山大道への最新インタビューを収録して1冊にまとめました。
森山の生い立ちや写真との出会いにも触れ、巻末に略年譜が付いた本書は、森山大道の写真を知るための手引きにもなるでしょう。

装丁は横山雄+大橋悠治
写真:森山大道

文庫68pages

河野聡子編「閑散として、きょうの街はひときわあかるい」TOLTA マイナンバープロジェクト 2020年4月20日ー5月19日

河野聡子編「閑散として、きょうの街はひときわあかるい」
TOLTA マイナンバープロジェクト 2020年4月20日ー5月19日 (TOLTA)¥1500+tax

2020年春、コロナ禍で、私たちは日々、様々な数字をつきつけられた。
毎日発表される感染者数や死者数、受診の目安としての4日以上続く37.5度以上の熱、2m以上の社会的距離、3密、2週間の隔離などなど…多くの人がこれらの数字に注目し、一喜一憂した。
あるいは、感染予防に名の下に、マイナンバーという個々に割り振られた数字に、個人情報がひもづけされて管理されるのでは…という不安や危惧も再燃した。

そんな中で、言葉と詩の未来を追求するヴァーバル・アート・ユニットTOLTAは、偶然にも自粛要請期間に重なった4月から5月にかけて、数字を含むテクストを1日1編以上、ネット上の共有ファイルに書き込むマイナンバー・プロジェクトを呼びかけ、そこに集まったテクストを詩として再構成したのが本書である。

感情を含まない(はずの)数字や数値によって、2020年の春、人々が動揺や不安を覚えた、その空気を伝えるテクストが詩人の視点によって鋭く再編されています。

【執筆者】
ゲスト参加者(敬称略)
暁方ミセイ、及川俊哉、大崎清夏、岡本啓、小峰慎也、柴田望、タケイ・リエ、文月悠光、北條知子、三上温湯、宮尾節子、吉田恭大
TOLTA
河野聡子、佐次田哲、関口文子、山田亮太

A5変形134pages