大竹昭子 随想録「スナップショットは日記か? 森山大道の写真と日本の日記文学の伝統」¥900+tax
随筆・小説・書評・写真論などで活動する大竹昭子が都内の4つの書店を会場に開催するトークと朗読のイベント〈カタリココ〉から生まれた文庫本シリーズ「カタリココ文庫」。
対談の記録だけでなく、大竹昭子の散文もシリーズに加わりました。
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20代のデビュー当時から80才をすぎた現在まで、スナップショットという方法にこだわり、昨年(2019年)写真界のノーベル賞とも言われるハッセルブラッド国際写真賞受賞した森山大道。
80年代半ばに森山と知り合い、その作品を見ることで写真世界と繋がってきた著者は、ヨーテボリでの授賞式に駆けつけ、このシーンを皮切りに、森山大道の写真の核心を探ってゆきます。
森山の写真は、街路で目にしたものをスナップショットするという単純な方法で撮られていながら、世界が異界に満ち満ちていることを見る者に突きつけます。
日々歩いて撮るというシンプルさと、それが生みだすイメージとの飛躍。
著者はこの2点に注目し、そこにドナルド・キーンが『百代の過客』のなかで指摘した日本の日記文学の伝統が息づいているのではないかと考えます。
スナップショットは1950年代、カメラの小型化とともに広まりましたが、世界的には衰退する傾向にあります。
ところが、日本では森山大道をはじめとしてこれにこだわる写真家は多く、若い世代にも引き継がれています。
そこに平安時代以来の日記文学の伝統がかたちを変えて継承されているのではないか、という著者の指摘は、コロナ禍にあって日記が見直されているいま、さまざまな方向に考えを発展させる可能性を秘めています。
また本書の文章スタイルも、旅紀行やエッセイや評論の要素を併せ持ちながらも、そのどれにも属さない独自なものです。これについて著者はつぎのように述べています。
「写真について書かれた本は、専門用語や思想書からの引用が多く、難解になりがちです。写真はだれでも撮れる身近なものにもかかわらず、それについて語ろうとするとどうして難しい文章になるのか、というのは長らく私の疑問でした。
今回の本ではそれに挑戦し、写真の外に立って内部を観察しようと試みました。写真に関心のある人はもちろん、そうではない人にも自然に入り読み終えることができればうれしいです」
初出は『新潮』(2020年7月号)、それにコロナ禍の2020年6月19日に行った森山大道への最新インタビューを収録して1冊にまとめました。
森山の生い立ちや写真との出会いにも触れ、巻末に略年譜が付いた本書は、森山大道の写真を知るための手引きにもなるでしょう。
装丁は横山雄+大橋悠治
写真:森山大道
文庫68pages