ゼイナ・アビラシェド「オリエンタル・ピアノ」 関口涼子・訳

オリエンタル・ピアノゼイナ・アビラシェド「オリエンタル・ピアノ」 関口涼子・訳(河出書房新社)¥2400+税

オリエンタル・ピアノ」の紙面は、音とデザイン化された絵にあふれている。
状況説明のテクストも登場人物たちのセリフもクツが鳴る音や鳥のさえずりも同じ字体で書かれて、オノマトペがペンや筆で書かれたマンガを見慣れた人には少しとっつきにくかもしれない。
しかし、それは50年代のペイルートに暮らす主人公の一人アブダッラーを取り巻く音の景色でもある。彼は自身の音楽を奏でるために(たとえばハリー・パーチのように)12平均律にない4半音を奏でるオリエンタル・ピアノを開発し、ウィーンに招かれ、ピアノの量産化に向けて普及活動に精を出す…。

一方、現代のパリ。幼い頃から祖父にフランス語を仕込まれ、アラビア語と2つの言葉の中で育った若い女性が、ベイルートからのこの町に移住し、両国を往復しながら、やがてフランスに帰化するうちに、フランス語に不在の言葉に気付いたり、アラビア語にないニュアンスを体感したりして、二つの言葉は編み物のように絡み合いながら、このもう一人の主人公の中で、豊かな表現を織りなしてゆく。

曾祖父と曾孫娘の物語が交錯するなかで、(曾祖父と親友の性格が正反対なら、その親友は双子の片割れであり…、
時代は変れど曾祖父も曾孫娘も東洋と西洋の間で自らの音楽or言葉を奏で…と)様々な要素がデュアルかつ精密に描かれてゆく。

言語や文化を、自身の記憶や体に取り込み、再び紡ぎだすことで自身の物語=人生を歩んでゆく様は、誰もが自分のオリエンタル・ピアノを発明し、奏でる行為であるかのように。

B5判212pages

オリエンタル・ピアノ

意気揚々としたアブダッラーの気持ちはトビウオの音符で表現され。

オリエンタル・ピアノ

フランス語とアラビア語は、彼女の中で編み物のようにひとつに織り込まれてゆく…

オリエンタル・ピアノ