アレクサンダー・ゾグラフ作 ハル吉訳「爆撃地セルビアからの手紙」(峠の地蔵出版)¥1400+税
かつてバルカン半島にあったユーゴスラビアは90年代に入ると、スロベニア、マケドニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ…と、各地域が紛争を経て次々に独立。そこからあぶれたセルビア人がコソボに移住したことから、アルバニア住民の反発を招き、98年に、過激派のコソボ解放軍とユーゴスラビアおよびセルビア軍が対立し、コソボの自治回復を支援するNATOの介入を招き、セルビアは空爆にさらされた。
本作は、1999年のNATOによるセルビア空爆中に、漫画家ゾグラフが、友人の漫画家クリス・ウェア(『ジミー・コリガン』が有名)に、当事者としての週刊漫画を描いてはどうかと勧められ、爆撃のさなかに海外の雑誌やウェブサイトに掲載された1ページ完結漫画集。
爆撃の危険の中、限られた情報の中で、漫画家は事態を冷静に見詰める一方で、「僕はただ漫画を描きたいだけなんだ。悪夢から目覚めさせてくれ」と訴えたり、アイロニーたっぷりに爆弾の種類を描き分けたり、停電中に自分の内なる声に耳を傾けたり、はたまた友人のロバート・クラムが夢に出てきたり…。
爆撃への恐怖と不安はたまた、紛争に対する無力感だけでなく、創作や漫画への想い、日々の暮らし、などが、プロパガンダや圧力の下にもかかわらず驚くほど冷静かつリアルに描かれた、著者の代表作で、何カ国語にも翻訳されたもの。特徴的なタッチも、読みすすむにつれて、クセになってきます。
今回、本書の訳者で発行人のハル吉が、国際的に活躍するセルビアを代表する漫画家のひとりであるゾグラフにダメもと?で出版の企画を申し込んだところ快諾され、原書にはない、セルビア地図や脚注、インタビューも付して出版の運びとなった。
巻末インタビューでは、自作のみならず、セルビアの漫画シーンについても言及しています。
A5判120pages