虹釜太郎「ラヴレスキュイジーヌ」

ラヴレスキュイジーヌ

虹釜太郎「ラヴレスキュイジーヌ」¥900

料理においしさも栄養も求めない、と言い切る虹釜太郎による、超絶料理とロストラブを描いたメタフィクション。栄養とか健康といった食生活を支配する固定観念から解放された、ワイルドな食、あるいは辺境の食を求め、日々実践する虹釜さん自身を主人公に反映した、あつあつグラタンのように火傷必死の愛と料理のエクリチュ〜ル。

レシピ未満、廃墟的、あるいは食の盲点にばかりに焦点をあわせようとする無為な食を探求する主人公。そんな男と同居する女の得意料理は「怒り過ぎこげ過ぎの喧嘩の後に残る廃墟食=気まぐれカチーザ51という名のグラタン」であり、二人はいつでも予定調和とは対極の未知なる到着点を目指し、感情も素材もスパイスもマックスに投じた激しい愛と食の生成を試みる。「炸裂しない予測可能な世界に急にうんざりしたのか彼女は突然うしゃ—っおたけびをあげ左手でアボカドクッキーを握りつぶした」その破片に特別調合のオイルや素材を重ね…新たな料理を仕上げ、粉々になった主人公のアボカドクッキーの破片が料理の中でチーズとともに溶けようとも、怒りは収まらず…… 探求心と尽きない感情の業火が料理を熱くし、激しい感情を再燃させ、ついに女は男の元を去る…。それでもラヴレスに、バランスを欠いたまま、男の極北レシピはさらにさらにさすらい続けるのであった…。

痴話喧嘩と料理と失恋の狂騒を、少林サッカーなみの超絶技巧と最大出力で描き、食材からドラッグを料理してしまったような、脳と舌を麻痺させる作品。

A4判18P ミックスCDつき

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「食アヴァンギャルディストによる濃厚な疾走、物語の意味を逸脱する極彩色の文章、読み飛ばそうとすれば絡み付いてくる連用修飾語、描かれる物の輪郭で踊る連体修飾語、ラテン?アメリカ文学もかくやとおもわせる異形の情景、140文字のネットツールに慣れた人間がこのグラタン?メタ?フィクションを読みこなせるか否か、読みこなせなければ携帯小説でも読んでろ。しかしどう考えてもリアル?デス トピアに暮らす私たちへ向けた、鮮やかすぎる21世紀初頭の文学」すずえり(音楽家)