「HENRY DARGER’S ROOM」 ¥3000
生前は清掃関係の仕事で辛うじて生活し社会との接点を持つ、半ひきこもり状態で1973年に没した稀代のアウトサイダー・アーチスト、ヘンリー・ダーガーが、人生後半の40年を過ごした部屋の内部写真を集めたもの。
インテリア雑誌のお部屋とは対照的に小さな部屋に生活用品から趣味のものまでをぎゅうぎゅうに詰め込んだ自分宇宙に暮らす東京の若者たちの部屋写真を集めた「TOKYO STYLE」の都築響一氏が小出由紀子氏とともにIMPERIAL PRESSの名の下で編集・発行した自費出版物。
シカゴ市内にあるタウンハウス、3階奥の一室がダーガーの部屋であった。生前この部屋に彼を訪ねる人はなく、近所の教会の牧師がたまに訪ねてくるか、大家夫人が電球を替えるために入室するぐらいだったという。身寄りのないダーガーが部屋を去り、大家でデザイナーとして活躍していたネイサン・ラーナーが片付けを始めたところ、そこにとんでもないものを発見した。『非現実の王国で』という題の付いた小説15巻と、その挿絵数百枚だった。人は、日常と非日常を往来してアートを生み出す。だが、ダーガーの場合、現実と空想は分かちがたく結びついていた。無慈悲で空虚な現実より、豊かで甘美な空想世界がリアルさを増してゆき、ダーガーはこの部屋に居ながら、『非現実』を生きていた。特異なアートを生み出した特異な人生。どちらもこの部屋で起こった。
ダーガーは雑誌の少女たちの写真やイラストを写真に撮り、それを拡大したり縮小し、トレース、コラージュして自作を構成していたのだが、その資料となった雑誌の束や、壁に飾られたいくつもの少女たちの切り抜き、分厚いパイのように重なった印刷物や紙の束などなど、没後間もなくしての70年代の写真と、部屋が撤去される直前の90年代に撮影された写真郡によってそのディテールが見てとれ、独特の作品の舞台裏が公開されたようで興味深いです。
ちょうど3月29日より渋谷シネマライズにて、ヘンリー・ダーガーの「非現実の王国で」を元にしたアニメ『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』の公開がはじまったばかり。あの、ヴィヴィアン・ガールズの女の子たちが動いているんですよ! あわせてヘンリーの内なる世界〜お部屋〜も覗いてみてください。