アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ「薔薇の回廊」(エディション・イレーヌ)¥2200+税
マンディアルグが谷崎潤一郎へのオマージュとした短篇小説を、山下陽子のコラージュと、アトリエ空中線の間奈美子の造本でエロティックに美しく仕上げた一冊。
マンディアルグの最後の小説集『薔薇の死儀』(1983)に収録された小説“Le Tapis Roulant”(動く歩道)を松本完治が翻訳。
薔薇色のワンピースに身を包んだ肉感的な美少女フローラは、地下鉄で一駅ずつ下車してパリ巡りをする。市民たちの通勤・通学の足であると当時に、それ自体が歴史的なモニュメントでもあるパリのメトロ。中心部の乗り換え駅シャトレで動く歩道に乗ったフローラは、いつしか、幻想の世界、白日夢に身を委ねていた——
谷崎へのオマージュか、日本料理店や日本人が現れて場面転換を行うのも日本の読者に親しみを持たせるのと同時に、現在と変わらないメトロや街の描写が、いつからかエロティックな幻想物語に変容するトリップも愉しめます。
アンドレ・ブルトンが好んだという黒とピンクの組み合わせを基調に、白いレース様の帯をかけ、メッシュ仕様の黒色カバー紙に箔押しを施しています。
なお、本文に使用しているピンクの特殊紙は、和菓子にまぶされた氷餅のような風合いで、メーカーで廃版になっていたものを、この出版のために残りの在庫を集めて必要量を確保したそうで、同じ形での増刷は残念ながら不可能とのことです。