Patrick Farmer「Green rings around the eyes, this grass in vibrant motion.」(nadukeenumono)¥1800
yuki ga futte uresii「sasayaku youni sindeiku」につづく実験音楽レーベルnadukeenumonoによる第二弾。今回もストイックな白いパッケージにして、その音もまたクール。こちらで試聴できます。
01:Green rings around the eyes, this grass in vibrant motion.
Improvisation for turntable, wire brush, and contact microphone.
Recorded by Patrick Farmer, 27.01.11, at Oxford Brookes University.
Photo by Richard Farmer.
Title taken from a poem by Nichita Stãnescu.
For Kate and Mark. 2011.
今作はSarah Hughesと共に英国実験音楽団体Compost And Heightを創設し、また昨年発表されたMichael Pisaro作「Fields Have Ears」にも参加した、英国の音楽家Patrick Farmerによるターンテーブル、コンタクトマイク、ワイヤーブラシを用いた即興演奏作品である。
即興演奏における録音行為は「まるでダンサーの写真を見るようなものだ」とも言われるよう、その演奏が行なわれた時間と空間に生み出された暗黙のスコアを踏みにじる行為であり、本来ならば避けるべき行為のようである。そのためか、現在流通している即興演奏作品は、その場の空気を損なわぬようほぼ修正を加えぬまま録音されているものが多い。
今作ではそういった従来の方法を取る事はなく、敢えて録音終了後に演奏に対して音響操作を行なうことにした。これは演奏が複数回に渡り再生される、或いはある部分を切り取られて再生される、そういった不可避の時制変更に耐えられるよう、演奏を現在時制から解放するために行なわれている。
この操作を可能にしたのは今作の演奏がコンタクトマイクを用いて録音されている事実である。今作は人間の聴覚器官では知覚する事のできない物質の振動を録音したものであり、そのため演奏中にその演奏を演奏者が知覚する事が出来ない。即興演奏における暗黙のスコアは演奏と演奏者その主客の関係が反転を繰り返し、互いに干渉し合う事で生まれる。しかし、今作においてはその関係性は最初から存在していない。演奏者の演奏と録音された演奏は独立して存在しているからだ。そのため前述の理由は積極的にこの操作を拒む理由にはなりえないだろう。
このような操作を行なった本作は”即興演奏”と名付けるにはふさわしくはないのかもしれない。しかし、今作のこの危うい美しさは現在時制を基準とした今までの即興演奏では決してあり得なかっただろう。(text:nadukeenumono)
500部限定