まるまる一冊”苔”です! 田中美穂「苔とあるく」

田中美穂「苔とあるく」(wave出版) ¥1680

 本と猫と苔をこよなく愛し、倉敷で古本屋蟲文庫を営む田中美穂さん。タコシェにも、苔の標本と苔マップ、苔写真やルーペを詰め合わせた苔袋というユニークな商品を納品してくれるほど、苔好きな彼女が、ついに苔の本を出しました。
 専門家とは違った、あくまでも在野の愛好家の視点で、苔にどう近づいておつきあいしてゆくか、彼女が撮った写真や標本、道具などなどとともに、やさしい口調で語っています。ともすれば見落としがちな、足下や小さな隙間にひっそり存在する小さな存在を見守る優しい視点がそのまま伝わるような、読んでいるだけでココロ暖まる本です。
 またお仕事がら、折に触れて苔に言及した文学作品なども登場し、その寄り道もまた楽しいのです。かわいいピンクのあたたかなカバー、それをめくると、モスグリーンの本体、そしてカバーの裏はなんと一面の苔の写真&苔みたいにフカフカビロード状の猫手! そんな心憎い工夫もまた楽しく、苔っていいじゃん、本ってすてきじゃない、てな気分にさせてくれます。
 挿絵は浅生ハルミンさん。また苔つながりでミュージシャンの工藤冬里・工藤礼子両氏が登場するなど、苔を通して広がる田中美穂ワールドがまた愉快です。どうぞ現物を手にとってそのステキさを御覧ください。
A5判変型 136P