謄写技法 06 ¥1260
謄写技法、いわゆるガリ版印刷で作られた限定100部のミニコミです。謄写技法についての説明の本ではなく、謄写儀本を駆使して毎回、形態や趣向を変えて、昔の謄写技法の印刷物を復刻したり、オリジナルに復刻調のものを作ったりもした冊子です。今回は、192×135サイズ、15丁に二葉綴り込み(袋綴じ)の和綴じ本の形をしています。折り込み頁も2葉入っています。
まず、うぐいす色のインクで特製の原稿用紙のフォーマットを刷り、そこに本文を黒インク、タイトルなどは藤色や水色などのインクで色を変えて印刷を重ねており、印刷・製本ともに凝っています。
内容:菅原克己のガリ版/金農「昔邪之盧詩」をガリ版す/富樫栄治の『本』/近頃買った本買えなかった本(7)/「小資本開業案内」に見る謄写印刷業/書生風俗いろは屋貸本店 最終回/深謝、戴き物御広め2/綴じ込み=「本」64号(一輪草舎書屋)
付録:坂本謄写堂営業案内/次回予定「謄写技法別輯2賢治の謄写版」のチラシ。
月別アーカイブ: 2009年5月
「電光ボーイ」展示に寄せる太田螢一さんの文章です
昨日の予告とおり
太田螢一さんが、代表作「電光ボーイ」に寄せる思いと、ともに歩んだ歴史を綴ってくださいましたのでご紹介します。(長文なので、少しこちらで改行をしています)
「電光ボーイ」1979年 F30号(910x725mm) キャンパスにアクリル絵具
(”BEAMER” 1979, F30, Acrylic on canvas, for the Exhibition of “PANORAMA HOUR” at Chiba City)
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薔薇薫る五月の太田です。
この度この作品がオーバーホール、美粧を終えフランスのお宅に貰われてゆくこととなり、折角なので旅立ってゆくまでのしばらくをタコシェさんの御厚意で店頭公開し、少しでも各位に観てもらおうということになりました。
なぜこの作品だけを特別にといえば、この絵が私にとってとても重要な記念すべき作品だからです。
今から30年昔、1979年に描かれたこの絵は当時「パノラマ・アワー」なる千葉方面で私が主宰したグループの展覧会の為に制作されました。それまで描いていた作品をより自分そのものの形にしようと色々な自分の中の自分らしい傾向のエッセンスを核融合しつつ、描き方、考え方、在り方等の決定的な型をこの作品で結実させ、時代の中でのオリヂナリティの頂点を目指そうと悪戦苦闘。あげくの果てに奇跡的に出来上がったのがこの作品で以降の私の作品達の基本スタイルが産声を上げたのです。
その時代、私や私の周りのカゲキスト達はあれこれとおもしろがってやっているうちいつの間にニューウェイヴの真っ只中に入り込んでどんどんと先鋭化しつつ発明や工夫を音楽や絵に具体化しようとしていました。私自身もそれ以前から傾倒していたレトロ趣味や持ち合わせたラヂカル気質(カタギ)や、あやしげでいやらしい生理的気分をニューウェイヴの力を借りつつ絵や作詞等に次々花開かせたのでした。この絵「電光ボーイ」は輝かしくも創意あふれたニューウェイヴ・エイヂの絵画部門を代表する一枚だと思っています。たぶんこの原画を公開するのは今回が最後となるのではと思われるので、どうぞニューウェイヴ・エイヂを懐かしむオリヂナル・ニューウェイヴ・マニアも、新鮮さを感ずるニュー・ニューウェイヴの友も、太田作品を愛する貴方も、太田本人を恋する君も、きっと御高覧あられますよう。そして「太田螢一」の完成の瞬間をぜひ目撃して欲しいのです。
オーバーホール作業は30年が経ってるうえ長く暗いところで眠っていたお寝坊作品なのでさすがに状態はかなりイカレていて汚れ落としや付着したゴミを削ったり全面の加筆修正そしてバニッシュでコーティングと作品が大きい事もあり数ヶ月の時間を要しました。30年前の若き日の自分と語らい合いつつの共同作業でした。額装は絵の中のアール・デコ趣味を生かす為、階段型の額を捜しましたが現在はボリュームのある物の入手が難しかったので額縁屋さんに協力していただいて平角の木地の額四面をハメ殺し、ある程度の幅の段々額をこしらへ、古びた気分をアップさせる為、半光沢の飴色ニスを何度か布でこすってみました。
裏書きには絵との関係を何日も考えあぐねあぐね…劇場の案内係を描くという大変な妙案がポーンと閃いたのです。待った甲斐があったと嬉しくなってヘンな形で小躍りしました。懐中電灯で足許の暗闇を照らして人々を導く案内係。なんて素敵な象徴なのでしょう! 照明係の絵との関係も実に素晴らしい。大きくて手強いのをペイントマーカーでぐりぐり描き上げました。
箱書きはニューウェイヴな文字をレタリングして、よーやく30年の月日を費やして完全な出来上がりとなり精一杯のきれいなおべべでもうじき異人さんの許へ行ってしまいますねえ。いつまでも可愛がってもらえますようにと私は願うのです。いつも作品を売却するときはなんともいえずさみしい気持ちになるけれど自分の所でわだかまっているよりは素敵に飾ってくれるおうちに行った方が彼らは、しあわせだし、そーでなければ絵が生きて活躍しているとはいえないわけです。作品を物品的に集めたり売り買いするアート・コレクターやギャラリーに売却するのは奴隷に売るよーなもの。養子として絵を購入して大切に飾って日々の暮らしの中に生かしてくれる所にこそ彼らは行くべきなのです。
1979年「電光ボーイ」が照射した未来という舞台。そこで演じられるお芝居は、その後の現実にあった出来事とはまるで無縁の素晴らしく単純で無邪気な、ぐるぐるとめぐり繰りかえしの多いおぞましくも蠱惑的な未来です。そして、それはもちろんその後の私自身の作品達が今までもこれからもオープニングもエンディングも無いままに果てなく演じ現し続ける「魅力の発表会」なのだと理解していただきたい。
各位へ!
2009年 5月 太田 螢一。
お店の外から見られるようになっています。
太田螢一初期作品「電光ボーイ」を展示しています
最近”1980年代のポップ・イラストレーション”(アスペクト)にも収録された、太田螢一さんの初期作品で、氏の画風を確立したエポックメイキングなペインティング「電光ボーイ」をただいま店頭で展示しています。
描きながら、手法や画風を作ったという30号(910×725)のキャンバスにアクリルで描かれたこの作品は、長年の表面の汚れをおとし、作家本人の手によって表面もなめらかに整えられましたが、それでも、近くで見ると、描き重ねて厚くなった部分がわかって、試行錯誤が伝わってきます。
間もなく海外に渡り、しばらく日本での展示の機会もないので、急遽、しばしの展示を行なうことにいたしました。
連休中、もしお立ち寄りいただけましたら、ぜひご覧ください!
太田さんご本人による、作品解説などは、また明日。