ミニコミで振り返る1997年

先日、ばるぼらさんと野中モモさんのお二人から取材を受けたとき、過去に発行されたミニコミが話題になりました。90年代にどんなミニコミが出ていたか…、尋ねられても、記憶が心もとなく、その場でちゃんとお答えできませんでした。情報の収集や分析のエキスパートばるぼらさんいわく、過去のミニコミ、特にネット普及以前のものを調べるアーカイブは意外に少ない!とのことで、タコシェで見てきたミニコミについて記録しておこうと思いました。

これまでに入力したデータをもとに、タコシェで、いつ頃、どんなミニコミが納品されて売れたかを調べ、記録してある一番、古いもの〜90年代後半〜からミニコミについて記録しておこうと思います。はじまりは97年。ちなみにこの頃、お店で使っていたPCはMacのLC630でした。前述の通り、スマホ以前、個人が所有するPCでできる作業は限られていて、誰でもチャチャっとDTPを行うわけにはいかない頃のことです。おそらく、この後のネットの普及によって、ミニコミの形態や内容に次第に変化が出てくるだろうと思います。お店に立ちながら、漠然と感じていたことを、データと摺り合わせるよい機会かと思います。お店に残っているデータに基づいていますので、実際の奥付の発行年とずれているものもあるかもしれませんが、何か間違いや補説的なものがありましたら、より正確な情報を記録するうえでも、お教えいただけましたら幸いです。

=ベスト5=

ショートカット

「ショートカット」

ショートカットは、編集・発行人の桜井通開が大学時代にはじめたもので、テクストをスタイリッシュだけど必要最低限のデザインに落とし込み、コピー(のちに簡易印刷機)で印刷して、ホチキス製本したA5判の冊子のシリーズ。原稿を際限なく書いてしまう癖のある松沢呉一のアウトプットの受け皿にもなったり、多岐に渡るジャンルの執筆者たちからの原稿が揃えったところで即、印刷、製本という流れでスピーディに発行を続け、90年代を駆け抜けた代表的なミニコミ。

ちなみに、いくつか内容を書き出してみると…82 号:イメージフォーラムから出ているアブストラクト・シネマをモジュールという概念を用いて論じた巻頭特集が充実 91号:マンガ特集。佐藤宏之、山田芳裕、土田世紀、松本剛、山上たつひこ、山川直人。95号:ディドロ、ダランベール、ヴォルテールなどの百科全書派の特集。97号はエントロピー特集。103号SOCCRE・・・フットボール・オール・オーバー・ザ・ワールド、とバラエティ豊か。松沢呉一、金村修、飯野形而、コロスケ、吉野英理香、池松江美らが参加し、記事のクオリティも高かったのです。
本体価格は300円~380円。ページ数の多い「ショートカット松沢呉一」は500円
タコシェへの納品は99年で終わっており、その後、発行人の桜井さんはWebシステム開発に携わり、最近では雑誌「Spectator」に書評を寄稿されています。

●セブン
学生だった編集人が、大ボリュームのジョージ秋山を特集。お酒を飲みながらの衝撃インタビューと全作品リスト、未単行本化作品「告白」を完全収録。この頃、商業ベースで「マンガ地獄編」(水声社)「消えた漫画家」(太田出版)などで、梶原一騎やふくしま政美、ジョージ秋山といった男臭い骨太漫画や、一世を風靡して消えたマニアックな作品が注目され、多くのタイトルの復刊を後押しするのですが、その中でも「セブン」はジョージ秋山に特化した濃いミニコミとして印象的でした。価格はタイトルにちなんで777円でした。

●猟漫日記
タコシェのお客さんだった著者が、マンガ収集にかける情熱を日記スタイルで綴ったもの。多くのマニアの共感を呼び、人気を博しました。タイトルは戸川昌士の「猟盤日記」へのオマージュ。シリーズは3号まで続き、3号目は日記だけでなく、まんだらけ目録に50通応募してどれだけ当たるかなど企画記事もありました。価格は150円〜200円。90年代は、日記形式のミニコミが多くありました、今ではブログですよね。個人がサイトやアカウントを持っているわけでないので、ミニコミへの執筆依頼をお店を介して行うこともありました。そうやって、お客さんや読者が、寄稿者になったり、編集人や納品者に変わるのを観るのもお店の楽しみでした。

●三本義治「マンガの本」
漫画家の三本義治が興味の赴くままに、先輩漫画家・安部慎一に会いに行くなど取材したものをまとめた個人誌。このシリーズを終えた三本さんは、その後、紙芝居により作品を発表することになるのです。

日曜研究家

●日曜研究家
日曜研究家こと、串間努さんが、駄菓子や学用品などの子供文化、電化製品、石鹸・洗剤などの家庭用品、大衆食、路上の看板など、量産されれ廃れてゆくアノニマスな昭和のB級文化を発掘、記録したミニコミ。銭湯や昭和庶民文化の研究の町田忍さんも参加しており、お二人ともこのジャンルのエキスパートとして活躍することに。
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ほかに、大人計画発行のペーパーで松尾スズキ、宮藤官九郎、安部サダヲらが参加し、カメラマンの滝本淳助、映画監督の井口昇など彼らの巣周辺の変わった才能に光を当てた「山と警告」(95〜96年)、安田謙一「3ちゃんロック」、裸のラリーズを特集した「etcetra」、外山恒一「月刊ヒット曲」、幻覚(大麻、ドラッグ、きのこ…)専門誌「オルタード・ディメンション」なども、この頃のものでした。今でいう危険ドラッグが、煙草より刺激的でドラッグよりはマイルドな”嗜好品”として出まわり目にするようになったのも90年代後半でした。青山正明の「危ない薬」「危ない1号」、ねこキャラとともに暴力や幻覚が描かれた「ねこぢるうどん」も、90年代でした。あ、それから、厳密にはミニコミでないかもしれませんが沼田元氣さんが石原豪人先生とコラボをしたりした「えろもあ」も96年から97年にかけてでした。