2003. July      トップへ

  by Ayumi NAKAYAMA



●03.07.27 書体
 ちょっと前に、版元ドットコムを通して字游工房という書体デザインの会社の方と知り合い、家庭的な居酒屋で食事をご一緒した。サービス精神旺盛でいろいろなお話を披露する社長・鳥海さんと、その話を神妙に聞いてるようでときどきつっこみを入れる社員の岡澤さん。ちょうどよい頃合いに、岡澤さんがそっとまとめて会計をすませたり、気遣いや気配りがほどよくさりげなくて、もともとみんなが大人で心得ているのか社員教育が行き届いているのかはわからないけど、その振る舞いに好感を感じて、字游工房が自費出版した『鈴木勉の本』という本にも興味を持ち、後日わけていただいた。
 鈴木勉さんは字游工房を設立した先代の社長。書体デザイン一筋に、若くしてスーボという太くて丸いユニークな書体で注目され、その後、秀英明朝、ヒラギノ明朝など基本的な書体も手がけ、書体の世界を常にリードしながら若くして亡くなった。その鈴木さんと仕事をともにした人、友人、家族ら多数が寄稿し、業績を記録することで志をひきつごうという前向きな意思が伝わる本だ。
 居酒屋でも、デザインには手作業で線をひいたりするアナログな工程があることを少しうかがったが、この本を読むと、ひとつの書体を作るのには約8000字分をデザインし、一人でこれをやるとすると約3年を要すること、字游工房では少人数のチームでコンセプトやデザインの統一をはかりながら開発をすすめていることなど、地道な作業の一端がうかがえた。デザインといいながら、みんなが当たり前に使う文字の中で、広く長く使用される基本的なフォントを開発するには、しっかりしたコンセプトや主張、デザイン性を持ちながら、前に出すぎず、ごく当たりまえな形として受け入れられなくてはならないという一見矛盾する技が要求される。まさに職人芸である。なにか彼らの居酒屋での振るまいにも通じるようではありませんか。
 どんなすばらしい小説や評論でも文字という形がなくては伝えられない。そんな大事な文字なのに、ふだんはあまり気に掛けずにすごしてしまうことが多い。字游工房の方にお目にかかったり、本を読んで、ものいわぬ文字ひとつひとつにもぬくもりがあるように思えた。

●03.07.26 花火
 数年前、ベオグラードから一時帰国した友人は、旧ユーゴスラビア出身の妻に故郷の名物・隅田川の花火を見せようと、街に出たはいいが予想以上の人出に立ち往生し、鑑賞ポイントに辿り着かないうちに花火大会がはじまってしまった。景気のよい打ち上げの音だけが響く人混みで、妻は悪夢--空爆--を思い出し、すっかり気分が悪くなり、花火を見ることなくひきあげたと苦笑していた。もっとも空爆直後は爆音に怯えていた友人夫婦も、しばらくすると、音だけで爆弾の種類と爆撃ポイントの位置や距離がわかるようになり、「いちいち慌てなくなったけどね」と、さらりと語ってもいたが。
 そんな話をきいてから、あんなにも私をワクワクさせた花火の音が、体験したことのない空爆にだぶってせつなく怖い。
 打ち上がる美しい花火に「空爆ではない」と確認しながら、何千、何万という人が同じ夜空を見上げて歓声をあげていること、もうそれだけで奇跡のようにも幸福にも思えるのであった。

●03.07.24 螢市場
 太田螢一さんのフェアの日程がようやく決定した。思えばはじめて連絡をとってから何年が経ったろう。4年くらいはかかったような気がする。80年代に学生生活を送った人にとって太田さんは特別なアーティストの一人ではないだろうか。ゲルニカなどの音楽×アート活動、なごむレコードのキャラクター、ヒカシューのジャケット画など、印象的な仕事をたくさんしておられる。
 タコシェをはじめてからもずっと太田さんのことが気になっていて、知人を介して太田さんと連絡をとり「グッズをいろいろ展開できたらいいですね」なんてお話をしてから4年。それにしてもどうしてそんなに時間がかかったのかというとこれはひとえに太田さんのせい!(と人のせいにしてしまおう)
 太田さんはいっしょに話しをしていると、気さくで丁寧でとても気持ちよい。でも、作品には妥協がなくTシャツひとつ作るのでも「問屋からシャツを仕入れて準備しましょう」なんていう私を決して叱ったり否定しないのだけど「うーーん、うーーん…」とか言って、微妙な螢一カラーにかなったTシャツを街で丹念に探すのである。さらに、着て歩くためのシャツだし本業の刷り師でもない自分が刷るのだから高い値段をつけるわけにはいかない、となればシャツもリーズナブルに仕入れなくてはいけないというわけで、こだわるあまり金に糸目をつけないとなるのが順当なところを、こだわりながらも金をかけないという矛盾を引き受けてしまう。なので、もう太田さん好みの色でいて安いという千載一遇のチャンスに出会うのに時間がかかるのである。それは主にセールという期間にやってくるのだが、セール品は常備品とは違うから、太田さん好みの色と値段に出会えても、それは本当の一期一会で大量仕入れは無理なのであった。ことほどさように物資確保からしてたいへんで、さらにそれを自ら刷るという段階でも絵の具へのこだわりがあり、刷り加減にもこだわりがあり、さらには何気ないタグやら札にもこだわりがありで(札に糸を通す穴の開け方ひとつにも電話でいろいろ話をするのだ)、およそ、資本主義の生産体系からほど遠い太田工房なのである。
 トートバッグも色と形にこだわるあまり「そんな太田さんの言う通りの色や形のバッグがあるもんかい」と私がブーブー言っていたら、みつばちトートの束松さんが「お手伝いしますよ」と申し出てくださりオーダーメイドできるようになったが、そこにたどりつくまでに私もブーブー1年は言い回っていただろうか…。
 あ〜〜、何をやっているんだ太田さん、そして太田さん以上にこの私は!!(そんな私のいらだちに関係なく太田さんは黙々と家でプリントしたりタグの穴をあけたりしてるのだが…)という状態ですが、そんなだらだらこつこつの4年を過ごせたのも待てたのも、太田さんの作品の魅力ゆえ、太田さんの作品が好きだからという点につきます。
 ほんとに、タグの穴ひとつにいたるまで太田螢一の作品です。日程が決まってラストスパートをかける太田さん。皆さんにも楽しみにしていただきたいです。ほんとすてきなものがいっぱいです。

●03.07.20 サイン会の作法や事情
 笠間先生のサイン会。なごやかな雰囲気の中で無事、終了。サイン会は読者の皆さんと作家さんの交流の場。以前、大型書店の大規模なサイン会に客の一人として行ったとき、並んでいる間に、表紙をめくって扉にすぐサインを入れられるよう指示され、ベルトコベア式にサインを入れていただいたことがありましたが、タコシェは小さな店なのでできるだけアットホームにサイン会もできたらいいな、と思い機械的にならないようにしているのですが、そのぶん、多くお客様にいらしていただいたときは不手際も出てしまってすみません、なのです。
 よく、きかれる質問に、「本を買ってからサインをもらうのですか」というのがありますが、これは必ず買ってからにしていただきたいのです。作家さんは「○○さんへ」などとお客様の名前を入れたりして、お一人お一人にその方にあわせたサインやイラストを入れてくださるので自分のものになった本を出していただくのが適当かとお思います。また、店としてもサインを入れていただいて感激!という状態のお客様に「あの、お金を…」と言うのは無粋なかんじで気がひけますので、先に買っていただけると有り難いです。
 ほかの質問に「よそで買った本にはサインを入れてもらえないのですか?」とか「既刊の本やよその出版社から出た本にはいれてもらえないのですか」という質問もお受けします。お客さまに喜んでいただければ、タコシェで買おうとよそで買おうと同じではありますが、作家さんをお呼びするにあたって、新しく出した本のプロモーションを兼ねてという理由でおいでいただき、出版社の方にもご協力いただくことが多々あるのです。(そういう場合はだいたい発売記念サイン会というように銘打っています)出版社の方は休日返上のヴォランティアで作家さんの送り迎えや本の搬入、会場整理などしていただくケースもありますので、そうしたお膳立てによってサイン会の場が設けられていることをご理解いただければ幸いです。その場合でも作家さんに時間の余裕があれば、該当する本以外にもサインを入れていただくように対応しています。長いキャリアを持つ作家さんのファンの中には10年20年前に買って大事に読んできた本を持ってこられる方がいらして、その本を介したファンと作家の対面や会話というのはそばで拝見していて、いつも嬉しくなります。そういう形の交流をたいせつにしたいと思います。

●03.07.19 たくさんお待たせしてしまい…
 根本敬さんのサイン会。たくさんの方においでいただきありがとうございました。本はしばらく前から売り出していて、前日までの本の売れ足をみながら、これまでの経験と照らしあわせて当日の来場者数を見込んだりするわけですが、当日になって、予想をはるかに越えて大勢の方にいらしていただき、嬉しい反面、段取りが悪く長時間お待たせしてしまったお客様もいらして申し訳ございませんでした。
 根本さんはアクリル絵の具でイラストを描き、用意した写真のカラーコピーも貼り付けてコラージュも作ってくださいました。当初、コラージュは先着20名様という予定でしたが、長くお待ちいただいたお客様にも…ということで途中で急いでコピーをしてみなさんにサービス。
 事前に「筆で描くと時間がかかったりしません? 予め人数を区切っておきましょうか?」と一応、根本さんに打診してみたりはしていたのですが「いや、道具が大げさなだけで、ペンと時間は変わりませんよ。当日、僕は時間をあけておきますから、お店とお客さんの都合さえ許してもらえれば皆さんにサインを入れます!」という頼もしい言葉に甘えて、サインを開始してみたら、「いや、筆で描くとペンと違っていいものですね。気持ちも雰囲気も違いますねえ」というわけで、力作になってきて3時間くらい描きまくっていたのでしょうか…。後半のお客様、本当に申し訳ありませんでした。
 パレットには何色かの絵の具がぐちゃぐちゃにまざって、根本さんは筆を殆ど洗うことなく描き続けてましたが、その色の混ざり具合が絶妙で、マジックの絵でも思うのですが、いろいろな色がまじった一見ぐちゃぐちゃのカオス状態でいながら全体ではそれが完璧な調合で、びっくりしてしまうのです。
 隆起のはげしい絵の具のイラストをお客さんは喜びつつ、かわかないうちに本を閉じることができず、あの本を手にひろげたままたくさんの方々が根本さんのイラストをかざしながら中野界隈を歩いていたことを思うとなんとなく愉快愉快でした。

●03.07.013 撮影会…
 映画「蒸発旅日記」に出演した藤野羽衣子さん来店日。藤野さんは映画の中でストリッパーの若い女を演じているが、実際にも、藤繭ゑの名前で昨年まで道頓堀劇場などの舞台に立ち人気を博したダンサーさんであった。自ら演出をしたステージにはSFやアニメの要素が入っていたりして、その意味でも異色のダンサーとして注目を集めていたそう。一方で、ミニコミやオリジナルTシャツなどを作りタコシェに納品にみえたり、自主映画にかかわったりと楽しい方。最近、荒木さん撮影の写真集を出版し、今後も女優として活動の予定だそうだが、当日は、ダンサー時代からのコアなファンの方がいらして、通常のサイン会とは違った熱気が…。
 熱心にシャッターを切るファンの方々、ステージ慣れしている藤野さんはそのひとつひとつにしっかり目線を送り笑顔で応える。サイン会というより撮影会と化していた。
 写真集の表紙をめくって、ファンの方をみつめて「こちらにサインをお入れしてよろしいでしょうか」とやわらかい声で話しかけると、皆さん、嬉しそうに「はい、お願いします」と頷く。
 私も美人だったら、ナイスボデイだったら…きっと別の人生が展開されていたはず。宅急便のラベルを持ってきてくださる?といえば業者さんがすぐに届けてくれたりとか、そんな。藤野さんをみながらつくづく思うのであった。

●03.07.09 たな
 以前、タコシェ通信の発行に際して、大好きだった花形文化通信の編集長をなさっていた塚村さんからお言葉をちょうだいした。塚村さんは、亡くなったダムタイプの古橋さんが、海外に行ったとき、街の生の声としてチラシやフリーペーパーを積極的に手にしていたことを紹介してくだっさった。私も同感。それでタコシェも狭い店ではあるけど、チラシやフリペ置き場を作って、なるべくお預かりするようにしているのだけど(といっても、野菜の安売りとかのは置いてはいない。音楽や映画やイベント関係にしてます)、いろいろ持ってきていただいても場所をうんと増やすわけにもいかないので、見やすく整理しやすくするため、棚に仕切を作ってみました。(写真の中程の細かい仕切がそれ。葉書サイズの小さいものをこうやって収納してみた)
 こういう日曜大工みたいなのは、すごく得意なつもりでしたが、最近、得意と思うわりに実力がないことがだんだんわかってきて、人と話したりやり方を聴くにつけ、かなり不器用だということが判明。(小さな棚をつけるのに8時間くらいかかったりして)ノコギリもうまく使えないので、工作用の道具で考えて作ってみました。というわけで、すごく壊れやすいかもしれないので、なるべく大事に扱ってもらいたいです…。

●03.07.06 インストアライブ
 るりさんのインストアライブ。お客さんでいっぱいになって、歌を聴いていただくことができました。タコシェは設備も不十分なので、お聴きいただくには不十分な環境ですが、そのぶん気軽に立ち寄って、聴いてもらえたら、と思っています。
 私もタコシェにいたから知り合えた作家さんたちがたくさんいらっしゃって、ライブなど聴きにいって、CDだけじゃなくて、このかんじもお客さんにお伝えできたらいいだろうな、というときがあって、るりさんもそんな作家さんのひとり。スローな関西弁で客席のみんなに語りかける和みトークやボケぶりが、弾き語りのフォークソングをさわやかにひきたてます…。
 るりさん、当日、足をとめて聴いてくださったお客様皆さんへの感謝のおみやげまで用意してくれました。駄菓子屋さんに売ってるようなおもちゃや塗り絵で、自分のコレクションを持ってきてくれたのです。
 今後も、中央線沿線やあちこちで展覧会やライブを予定してますので、名前をみかけたら覗いてみてくださいね。

●03.07.05 裁断
 実は、ブックカバーの裏地だけは私が裁断しており、不慣れな裁断にチャレンジしているわけですが、まず布目を整えるがめに、布を裂いて端っこをまっすぐにしてから(って、こんなこと家庭科の授業で教わったっけ?)、スチームアイロンをかけ(スチームアイロンがないので、霧吹きをかけながら普通のアイロンをかける)、布目にそって、型紙を置き、印をつけて、縫い代をつけて裁ってゆくのです。たったそれだけのことだけど、最初の50枚とるときは、夜12時前からスタートして完全に朝までかかってしまった。切るだけでなんて重労働だろう、と思ったものです。
 幸い、刷り増しをして、新たに裏地も切ることになり、便利なチャコペンで印をつけることにしました。チャコペンは鉛筆と違って、柔らかく印をつけやすいうえ、ピンクなので、はっきりしていて便利!と思ってウキウキでしたが、それが微妙に縫ってからも表にうつってしまう、と指摘され、やり直すことになり、目立たなそうな水色のペンを今度は使ってみたのですが、それもやはり完全には見えなくならず、再度トライと、もう毎晩のように裁断をすることになり、ホームページの更新などもままならず…、ようやく元通り、鉛筆で描いてみてなんとか合格したのですが、驚くべきことに、何度もやっているうち、以前は貫徹して切っていたものが、いまでは二時間足らずでできるようになりました。
 これなら、今後もできるかもしれない…と妙な自信ができました。



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